後期研修プログラム
本プログラムは、そうした活動をさらに発展させるため、人・家族・地域を包括的継続的にケアする家庭医を養成することを目的としています。
臨床研修必修化以降、絶対的な医師不足に加え、都市部への医師偏在による医師の地域間格差が問題となっています。島根県においても例外ではなく、中小病院や中山間地域の診療所を支える総合医の不足はとりわけ深刻です。本プログラムの特徴は、地域基盤型病院の家庭医養成プログラムとして「病棟も診る家庭医」を育成することです。このような環境で家庭医としてのアイデンティティを確立し、生涯を通して地域で包括的・継続的に診療を展開してゆける医師を養成することは、地域医療を支える人材確保において大きな意義があると考えています。
研修目標
1.研修アウトカム
(1)日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医の取得
本プログラムは、日本プライマリ・ケア連合学会認定の後期研修プログラムです。研修修了後には、同学会認定の家庭医療専門医試験に合格し得る能力を身につけます。
(2)育てたい2つの医師像
①都市型診療所で活躍する家庭医
・非選択的外来診療を行うとともに、適切に臓器専門医へコンサルトできる
・終末期・急性期を含めたハイレベルな在宅医療が実施できる
・地域の健康問題に対し、ヘルスプロモーションに関する研究もしくはプロジェクト・ワークを実践できる
②中小規模病院の病棟も診る家庭医
・複合的問題を抱えた高齢者を包括的にケアし、ターミナルケアも含めた在宅医療のバックアップをすることができる
・臓器別の問題に対し、一般内科医としてスタンダードな医療が提供できる
・「病棟も診る家庭医」としてアイディンティティを確立し、独自の取り組みを実践できる
2.一般目標
(1)急性疾患への対応、慢性疾患の管理、健康増進などあらゆる健康問題への対応において、生物医学的問題だけでなく、患者自身の心理的、家族的問題にも十分配慮した診療が提供できる(2)非選択的な外来・在宅診療、保健予防活動が継続的にバランスよく行える。診療には行動医学的アプローチを取り入れたり、地域の医療資源を有効に活用したりすることができる
(3)地域全体の健康レベル向上を目的とした地域保健予防活動に取り組む。地域のニーズやヘルスケアシステムの中で、スタッフや住民らと協同し、科学的なアプローチができる
(4)コミュニケーション技術をいかし、患者・家族と良好な信頼関係を築くことができる。また、ケアにかかわるチームのリーダーとして、その責任と役割を果たすことができる
(5)「生涯学習者」として自己決定型学習を実施できる。EBMに基づいた最新の知識を適応するとともに、自らの診療を振り返り評価し、診療能力の向上に努めることができる
(6)成人学習理論を理解し、指導医として学習者中心の臨床教育が実施できる。また、プライマリ・ケアに関する研究の基礎的な知識を身につけ、実際に研究を行う
3.個別目標
研修過程の中で、一般目標とは別にレジデント自身がPre-Assessmentを行い、レジデント、指導医の要望や社会的ニーズをもとに知識・技術・態度のそれぞれにおいて設定します。研修期間
医師初期臨床研修修了後3年間
研修施設
■出雲市民病院(一般内科:総合診療専門研修Ⅱ 必修、整形外科、リハビリテーション科)
■大曲診療所(診療所:総合診療専門研修Ⅰ 必修)
■大田市立病院(内科・小児科:領域別研修 必修)
■島根県立中央病院(救命救急科:領域別研修 必修)
■松江生協病院(女性診療科)
■海星病院(精神科)
■斐川生協病院(眼科)
■隠岐広域連合立隠岐病院(産婦人科)
■隠岐広域連合立隠岐島前病院(離島医療)他
研修内容
1.一般内科研修
一般内科研修は出雲市民病院にて行います。この研修では、臓器別研修ではない急性期・亜急性期・慢性期にわたる多彩な疾患・健康問題に対応できる知識・技術を習得することを目標とします。また、家庭医療科外来において、継続的な外来研修を行い、家庭医を特徴づける能力について学び実践を開始します。小規模病院の診療では、一般的な医学的ケアに留まらず、患者を取り巻く様々な背景に基づく多種多様な問題が持ち込まれます。通常のケースカンファレンスに加え、院内外の様々なスタッフや家族を交えたケアカンファレンスも開催し、これらの問題に対応する能力を養います。2.診療所研修
診療所研修は教育診療所である大曲診療所にて行います。非選択的な外来診療、在宅診療、および地域保健活動の研修を行います。コミュニティにより近い診療所での研修は、特に家族志向型プライマリ・ケアを学ぶには格好のフィールドと考え、最低でも1年間の継続した研修期間を設定しています。さらに当診療所で取り組まれている「診療の質改善」活動への参加を通して、診療所運営や経営に関する知識や新しいスキルを実践的に学びます。3.小児科研修
小児科研修は大田市立病院にて行います。大田市立病院は大田医療圏における小児医療の基幹病院であり、小児救急をはじめ、外来・病棟研修を通して、小児に関わる多彩な健康問題に対応できる知識・技術を習得します。4.エレクティブな研修
レジデントのニーズに基づく自由度の高い研修が可能です。研修施設や期間は個別に設定され、これまでの研修で不十分だった分野やさらに関心が生じた分野を補完します。選択科としては、女性診療科、整形外科、精神科、また、在宅から入院まで一貫して質の高いリハビリテーションを提供している出雲市民リハビリテーション病院での研修も薦められます。他の家庭医療学機関における研修、国際保健活動への参加も選択可能です。研修の特徴
1.継続外来診療
研修期間を通して、ワンディ・バックにより週に1日は大曲診療所もしくは出雲市民病院家庭医療科にて継続的な外来・在宅診療を実施します。2.家族ケア・カンファレンス
外来スタッフも参加し、患者のケアについて、家族的・心理社会的な問題も考慮しながら検討します。このカンファレンスはレジデントがマネジメントします。3.家庭医療セミナー
月1回、家庭医療セミナーを開催します。セミナーは、家庭医療学の理論的学習と症例からの実践的学びをむすびつけて行います。また、リサーチ・セミナーを実施し、プライマリ・ケアのリサーチを推進します。4.プライマリ・ケアに関する研究
プライマリ・ケア領域における学術研究を重視します。研修期間中に研究の基礎的な知識を身につけ、実際に研究し、学会発表や論文作成をすることを課題とします。5.外部アドバイザーの招聘
研修の質を保証するため、家庭医療・医学教育分野の経験豊かな先生方を招聘し、レジデント指導、研修アドバイスを行います。また、他の研修施設との研修交流により、システムから独立したメンタリングを行い、レジデントのサポートをします。研修評価
1.外来・在宅診療振り返り、ピア・レビュー
診療所外来・在宅診療の振り返りは日々行われ、レジデントの経験した症例について、家庭医療指導医が患者の評価やケアの方法などをフィードバックします。また、適宜、指導医やレジデント同士で外来診療を観察し、患者情報の共有、患者ケアの検討はもちろん、集団的に家庭医療の知識・技術を高め合います。2.ポートフォリオ事例検討会
家庭医療専門医を取得するには、ポートフォリオにより必要な臨床能力を示すことが求められています。月に2回開催する事例検討会は、レジデントの事例について、指導医、レジデントらがディスカッションし、家庭医療学的な視点からの考察も加え、ポートフォリオ作成の支援をします。3.レジデントデイ
月1回、レジデントデイを開催します。振り返りでは、研修ログ、セルフアセスメント用紙をもとにした自己評価、他者からのフィードバックを行います。また、適宜Significant Event Analysis(診療の振り返り)やクリニカルジャズを行い、家庭医集団の診療の質向上を図ります。4.研修委員会
研修の節目には、研修委員会にて研修目標の到達度に対する総括的評価を行います。研修委員会には看護師やリハビリ技師、ケースワーカー、ケアマネージャーなどの他職種も参加し、多面的な評価を行います(360°評価)。3年間の研修終了後、研修目標に達成したと判断された場合、「家庭医療後期研修修了書」が交付されます。研修スケジュール
年間スケジュール例
月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 |
1年時 | 出雲市民病院(一般内科) | |||||||||||
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2年時 | 大田市立病院(小児科) | 大曲診療所(診療所) | ||||||||||
3年時 | 大曲診療所(診療所) | リハビリテーション科 | 産婦人科 | 他の家庭医療学機関 |
週間スケジュール例
曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
午前 | 家庭医療科外来 | ピア・レビュー | 家庭医療科外来 | 家庭医療科外来 | レジデント回診 | |
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午後 | 病棟カンファ | 外来症例カンファ 家族ケアカンファ |
リサーチ | |||
夕方 | 家庭医療セミナー |
・出雲市民病院における総合内科研修期間を想定。家庭医療セミナー、家族ケアカンファは月1回実施。希望により検査手技のトレーニングを実施
研修プログラム運営体制
研修プログラム責任者:高橋賢史(出雲市民病院、家庭医療科/出雲家庭医療学センター センター長)
指導医:小松泰介(出雲市民病院院長、内科)
高橋賢史(出雲市民病院、家庭医療科)
藤原悠子(大曲診療所所長、内科)
藤原和成(大曲診療所、内科)
山形真吾(大田市立病院、内科)
楫野恭久(大田市立病院、小児科)
山森祐治(島根県立中央病院、救命救急科)
木佐俊郎(出雲市民病院、リハビリテーション科)
井上尊人(出雲市民病院整形外科部長、整形外科)
戸田稔子(松江生協病院女性診療科責任医、女性診療科)